「マーケティングに『なんとなく』は存在しない」。そう言い切る伊藤の思考は、驚くほど徹底したロジックに貫かれている。感性や勢いが重視されがちなエンタメ業界において、彼はなぜ「ロジカルな防波堤」であろうとするのか。学生時代の原体験から、彼が追い求める「完璧なマーケティング」の境地までを紐解く。

原点は「1つだけ残った商品」をどう売るか

―マーケターとしての「論理的思考」の原体験はどこにありますか?

学生時代のスーパーマーケットでのアルバイトですね。常に「最適な商品の見せ方は何か?」を検証していました。例えば、最後に1つだけ売れ残った商品をどう配置すれば、お客様が思わず手に取ってしまうか。そこに新しい商品をどう組み合わせれば在庫が最速で捌けるか。

周囲が感情や慣習で動く中、自分だけは「売れるための仮説と検証」をゲームのように楽しんでいたんです。目の前の数字(在庫)を動かすためにロジックを組み立てる。その時の高揚感が、今の私の根底にあります。

エンタメの「熱量」という曖昧さを、数字で封じ込める

―感性の強いエンタメ案件において、ご自身のロジカルな姿勢はどう機能していますか?

この業界は「KKD(経験・勘・度胸)」が当たり前化しており、数値化を諦めてしまう場面が多々あります。しかし、私はそこであえて「ロジカルな防波堤」として機能したいと考えています。

例えば、説明しづらい「エンタメの熱量」も、Xのポスト量の前日比、TikTokでの楽曲利用数の増加量など、代替指標を徹底的に収集すれば可視化できます。「なぜ当たったのか」という原因を特定し、再現性を作る。クライアントのご予算を「お預かりしている」以上、データの可視化と無駄の排除は最低限の礼儀だと思っています。

AI時代に「人間にしかできない10%」とは

―自動運用が進化する未来、マーケターの価値はどう変わると考えますか?

AIが90%を効率化する未来で、残りの10% 人間にしかできない付加価値は「感性と感情を、データ集計と結び付けること」だと定義しています。

若干注目されてきていますが、5年後には単なるCPAだけではなく、「第一想起」、「想起率」なども、より重要な指標になっていると考えています。数字の裏側にある「人の心」がどう動いたのか。その心理を数字で裏付け、戦略に落とし込む精度こそが、これからのプロフェッショナルの差になります。

理想は、100%の因果関係が支配する世界

―伊藤さんにとっての「完璧なマーケティング」とは、どんな状態を指しますか?

すべての因果関係が整理され、想定したロードマップ通りにユーザーの購買行動が促される状態です。

ターゲットを可視化し、自身でも商材を体験してユーザー心理を理解し尽くす。その上で、データに基づいた販促計画を進行し、その結果をまたデータとして可視化する。このサイクルが完璧に回り、「次の一手」が必然的に導き出される状態。すべてのプロセスに根拠がある、それこそが私にとっての満足のいく仕事です。